目を覚ますと、病院のベッドにいた。
体中がいたくて動けない。全身を包帯で巻かれている。
目を閉じると、火の海のなかで熱い煙を吸い込んだせいで、大音響とともに、目の前の渦巻く炎がゆっくりフェードアウトしていくシーンが脳裏に浮かぶ。(生きてるな、でも、おわったな) 病室の扉がノックされ、院長先生の回診ですと女性の声が。
カルテを見ながら田宮二郎のような院長が「火傷の状態ですが、浅いⅡ度熱傷ですから、大丈夫、皮膚の跡は残らないでしょう。
ゼロからの出発だね」とニヒルに言った。
三週間療養した北青山病院を退院して、松葉杖を引きずりながら、千駄ヶ谷のアパートに向かう。
歩を進めるたびに足の裏の火傷跡が痛む。
あの日の記憶がよみがえると、胸のあたりが押さえつけられるように痛み、鳩森神社の境内で腰を下ろした。 (これから、どうなっちゃうんだろう)